おいしさを支えたガスの炎
毎日の食事の支度は昔も今も大変な仕事です。
薪や炭で火を起こすのが一般的だった明治30年代から、ガス会社は調理器具の普及に力を入れてきました。
ガスによる調理はそれまでの薪や炭に比べて、
「すすが出ないので衛生的」「火力を自由に調整できる」などの利点がありました。
そして時代を追うごとに、より“便利に”“安全に”と発展し続け、
家の裏側にあった台所は、一家団らんの中心となっていきました。
台所を大きく変えたガスの炎
最初、明かりとして使われてはじめたガスの炎は、 1900年頃(明治30年代)になると、熱源へとその用途を大きく広げていきました。
ガスを熱として使うガス器具の登場で、私たちの生活の中で一番大きく変わったのは台所でした。 それまでの台所の多くは、土間で薪や炭を使い、しゃがんで煮炊きをしていましたが、ガス器具が利用できるようになると、立ったまま料理ができるようになりました。また、ガスの利用によって火の粉や灰が舞うことのない衛生的な台所に変わりました。

「大隈重信伯爵邸宅の台所」
村井弦斎「増補注釈食道楽」より
1902年(明治35)当時の大隈邸の台所。
右側にガスのかまどが3台、正面奥に外国製の
ガスレンジ(左写真と同型)が見えます。
はじめは海外から輸入した器具をそのまま販売していましたが、一般の人たちにはなじみにくく、また非常に高価なものでした。
1902年(明治35)頃になると、ガス器具を広く一般の方にも使ってもらえるよう、日本人の生活にあった製品が、ガス会社をはじめ、国内メーカーから販売され、ガスを使う生活が人々に少しずつ浸透していきました。
システムキッチンのはしり
大正の中頃になると、ガス会社は器具だけでなく、流し台やガス台を組み合わせた設備を販売するようになりました。これは「調理台」と呼ばれ、現在のシステムキッチンのはしりともいえるものでした。
ガス会社が販売するものだけあり、流しや調理スペースとガスかまどなどのガス器具が、機能的にまとまった優れたものでした。

一号炊事臺(流シ冷蔵器付)
ユニークな国産ガス器具の登場
関東大震災後から昭和初期にかけて、サラリーマン層を中核とした中産階級の増大は、西洋風の生活を取り入れた新しい都市型生活様式を生み出し、その多くが郊外にモダンな家を構えました。ガスはこうした生活には欠かせない必需品になりました。
このためガスのお客さまは急激に増え、1938年(昭和13)には東京ガス供給エリアで100万件を超えるまでになりました。
昭和初期から戦時下体制までの間に、さまざまな形のユニークな国産ガス器具が登場し、昭和モダンの良き時代を彩りました。
台所からダイニングキッチンへ
昭和30年代に入ると、世の中も豊かさを求めるようになってきました。核家族が進んだこの頃、家族で楽しく囲む食卓はとても大切なものになりました。当時の家族にとってダイニングキッチンは憧れでした。

昭和30年代のダイニングキッチン
ガス器具の多様化
昭和40年代になると、海外からの情報、TVの料理番組、食品の流通の多様さなどから一般の人々の料理に関する関心が高まり、洋風料理が作られるようになりました。
この時期には調理器具も多様化し、さまざまな工夫がこらされるようになりました。
このころ発売されたガス超高速レンジ「コンベック」は、パンやケーキを家で作るブームのきっかけにもなりました。
システムキッチンの登場
システムキッチンが、日本に登場したのは昭和40年代後半のこと。必要な用途に応じて機能的に収納棚、流し台、調理台、ガス台が組み合わせられ、インテリアに合わせてデザインを統一した台所が実現できる点などから急速に普及しました。
ダイニングキッチンの普及で台所が家族の中心となったこと、台所が室内のインテリアスペースの一部としてとらえられるようになったことも大きな一因と考えられます。

昭和50年頃の台所
時代のニーズに対応した器具の登場
昭和50年代以降、人々のくらしの変化に合わせたガス器具が発売されます。
1976年(昭和51)には、立消えや吹きこぼれで火が消えた時などに自動的にガスが止まる「煮こぼれセンサー(立消え安全装置)」が搭載された器具が登場。
女性の社会進出や食事のスピード化が進み、強火が望まれ、1984年(昭和59)には、チャオバーナー付のコンロが発売。
1991年(平成5)には温度調節機能や自動消火機能などの安全機能が充実していきます。
その後も、子供の誤作動による着火を防止するチャイルドロック機能や高齢化社会に対応した見やすい表示、清掃のしやすさ、デザイン性などを考えた器具も発売されました。
料理はもっと楽しく!もっとおいしく
1997年(平成9)以降になるとシステムキッチンの普及に伴い、ビルトインコンロが主流となっていきました。
2002年(平成14)から安全機能に加え、ボタン1つでおいしい料理を作ることができる便利機能や清掃性にも優れたガスコンロが登場。
2008年(平成20)には、ガスコンロの全口に安全センサーが搭載された「Siセンサーコンロ」が発売されました。
安全機能や清掃性の更なる向上に加え、グリルで肉料理や魚料理はもちろん、パンやケーキなどの幅広いメニューに対応するなど、“毎日の料理をもっと簡単に!さらにおいしく”するために、ガスコンロは進化し続けています。

コロンビア二口七輪
1904年(明治37) [調理器具・ガス七輪]
No.Shichirin-001
イギリスからの輸入品で、1904年(明治37)発行のカタログに掲載されている。当時国内で実際に使用された初期の調理器具で、現在のガステーブルコンロの原型。
英国フレチャラッセル社製ガスレンジ
明治後期 [調理器具・ガスレンジ]
No.Renji-002
1902年(明治35)にガスを使用する台所を備えた、大隈重信邸のガスレンジと同型といわれている。大隈邸の台所の評判に併せ、当時国内に輸入されて使用されていたイギリス製の製品である。
4升炊きガスかまど
明治後期 [調理器具・ガスかまど]
No.Kamado-001
ガスかまどは1902年(明治35)に開発された日本における最初のガス器具特許品。この製品はその改良品で、1908年(明治41)のカタログに登場し、昭和40年代までガス会社によって販売されていた。現在でも料亭などで使用しているところがある。
卵ゆで器
昭和初期 [調理器具・その他調理器具]
No.Hokachori-001
ガスを使った卵をゆでる専用のガス器具。エッグスタンドを模した形をしており、内部に水を入れて下部でガスを燃やし、下部と本体中央部の円筒内から内部の水を熱して使用した。構造はしゃぶしゃぶ鍋のようになっているが、ゆですぎないよう、正面に取り付けられた温度計で確認することができる。
食パン焼き器(四面式)
昭和初期 [調理器具・ガストースター]
No.Tosuto-001
ガス七輪の上に乗せ、パンを四面に立て掛けて焼くトースター。七輪のガスの炎は円形のため、内側より均等にあたり、同時に4枚焼くことができる。ただし、片面が焼き上がると、手で裏返さなければならず、四つ切りパンが焼き上がる時間には5分ほどかかった。
パーコ瓦斯珈琲沸器
昭和初期 [調理器具・ガスパーコレーター]
No.Paco-001
本体左側のタンク内の水がバーナーで熱せられ、沸騰したお湯が管を伝ってポットのコーヒー豆の上に落ちる。一度に3杯分の珈琲(コーヒー)を入れることができた。
2枚焼小型トースター
1955年(昭和30) [調理器具・ガストースター]
No.Tosuto-002
フタを開けて鉄板の上に敷いた金網の上にパンを置き、鉄板下のバナーで加熱して焼き上げる。蓋を閉め、平置きで焼き上げるため、ピザトーストなども調理できた。
タツミガス自動炊飯器
1957年(昭和32) [調理器具・ガス炊飯器]
No.Suihanki-001
1955年(昭和30)末に発売された、電気炊飯器に対抗するために開発された製品。ガス自動炊飯器自体は1930年代に登場していたが、ガスかまどに比べ高価で、時期尚早のためか、やがてカタログから姿を消してしまった。
キング一口コンロ
1957年(昭和32) [調理器具・ガスコンロ]
No.Konro-002
カラー塗装の外観を備えた昭和30年代のガスコンロ。マッチによる点火や使用方法は、それまでの製品とほとんど変わっていない。
ガス超高速レンジ(コンベック)
1974年(昭和49) [調理器具・ガスオーブン]
No.Oven-001
庫内に配置したファンで、ガス寝燃焼熱を強制的に循環し、短時間で調理を可能とした調理器具。庫内の温度はほぼ均一になり、調理温度がほぼ同じであれば加熱時間をずらすことで、さまざまな種類の料理が同時に調理でき、臭いも移ることがありません。これ一台で焼く、蒸す、煮る、などのさまざまな調理が行えた。
ガステーブル(SAFULL)
1991年(平成3) [調理器具・ガスコンロ]
No.Konro-008
「天ぷら油火災防止機能」「焦げつき消火機能」など7つの安心機能を搭載したコンロが「SAFULL(セイフル)」シリーズ。両口のコンロに搭載されたセンサーが安全を見守っていた。